許可をいただいて日本語訳しましたので、ご覧いただければと思います。いろいろ興味深い発見があるのではないでしょうか。
元記事:Easter Egg Edition https://cplcrud.wordpress.com/2016/01/24/the-easter-egg-edition/
昨年の大晦日のコミケ会場で、あるファンが日本語訳プロジェクトのリーダーであるhirに話しかけているのに聞き耳を立てていた。内容は今までに何度も聞いたことのある質問だった。
「『岩魚子』ってどう読むんですか?」
会話に割り込むにはちょっと位置が遠すぎたのと、そのファンはすぐに立ち去ってしまったので、説明をする機会を逃してしまった。あとでhirから、どうしてこんなに日本人らしからぬ名前を使ったのかと聞かれた。
答えは単純。岩魚子は日本人ではない。少なくとも私の頭の中では。"Iwanako"はあるポーランド人の女の子の名前をもじったものだ。無実の人に害が及ぶのを避けるため(それと本人にもし知られたときにひどい目に遭うのを避けるため)、実名を挙げるのは控えておくが、KSのオープニングを書いていた頃、私はその子に惚れていたのだった。それで彼女の名前をねじ込んだ。もちろん、日本らしくない名前に翻訳チームからは懸念が寄せられた。開発チームはほとんど気にも留めていなかった。最終リリース直前まで残った、他の「○○子」という名前と同じくらいには自然だと思っていたからだ。スクリプトの冒頭部分が日本に伝わると、その名前が彼らの目に留まり、"Iwana"の部分に「岩魚」という漢字を当て――かくして「岩魚子」が2chで急浮上したというわけ。
どんなライターもイラストレータも、ちょっとしたことを作品に追加する必要が生まれたときに、自分自身の身の上の一部を盛り込んだことくらいあるだろう。以前、自分のそうした事例をリストアップしたことがあった気がしたけど、昔の記事を読み返しても見つからなかった。
というわけで、私がかたわ少女に仕込んだ隠しネタ(イースターエッグ)をご紹介する。一部は削除されたと思うけど、残ったものもあると思う。
・久夫の部屋
シンプルな部屋だが、これにはある理由でこだわりがある。久夫の部屋は部屋番号も含め、大学時代の私の寮の部屋がモデルになっている。リリーと華子の部屋も、当初のディレクションはその時代の女友達の部屋を参考にしていた。
・プール
これも大学時代の思い出だ。プールは取り入れなければと思っていた。私はオーストラリアの防衛アカデミー(アメリカのウエストポイント陸軍士官学校に相当する)に通っていた。障害者のための学校ではないものの、当然のことながら身体能力には重点を置いていた。プールは様々な身体訓練で重点的に使われたので、これを盛り込むのは理にかなっていると思った。実際にはまったく使われなかったが。
・(当時としては)恥知らずな自己投影
プロジェクトの初期の私は、キャラクターの作り込みという面では10台のファンフィク書きと大差ない腕前しかなかった。さらに華子推しで「おう俺ってちょっと人付き合い苦手で孤独っぽいからマジ華子に似てるぜ」みたいな考え方に染まっていた。なのでGrid1に登場するオリジナルの華子はサウンドエンジニアだった。高校時代にアマチュア劇団に属していた経験を丸ごと華子に突っ込んだ。
幸い、他のライター達がこの露骨な自己投影に反発してくれて、そうした内容はすべて削除された。しかし痕跡はいくつか残っている。たとえばカラオケへの言及や酒の飲み過ぎなどだ。(削除されたAct2のシーンでは、リリーが久夫と華子をボートに乗せ、華子が社交恐怖心を和らげようとして痛飲するという場面があった。アドバイス:これは華子には役に立たなかった。私には一度も役に立ったためしがない。長期的にはみなさんの役にも立つことはないだろう)
・タイルを踏む遊び
華子に対する自己投影を全部ボツにしたあと、彼女のキャラクターをもう一度肉付けする必要があった。誰が言い出したのかは思い出せないが、もっと華子に現実味を持たせろ、親しみやすくしろと言われた。その時はどうすればいいのかよくわからなかったので、自分が普段よくやっている、とある行為をこっそり忍ばせたのだった。それがタイル遊びだった。へんてこでおかしな行為に見せかけはしたが、みんなこういうことをしているんじゃないかと思う。遊び方にはこれ以外にもいくつかのバリエーションがある。(つまり華子もきっと同じようにやっているだろう)
・ライフ・オブ・パイ(パイの物語)
華子ルートで登場した本のほとんどは、当時私が読んでいた本だ。本そのものには大した意味はないが、ライフ・オブ・パイを読んだのは映画になる数年前だったので、その時点ではあまり知られていなかった。
・雛見沢
何度か書いたことがあるが、KSを執筆していた当時、私はひぐらしにドハマりしていた。(今でもある程度は)なのでその関連のネタがいくつか入っているが、一番わかりやすいのは「学校からの道」の背景だろう。これはひぐらしでは雛見沢と名付けられている、白川郷に至る道だ。
「山久」もひぐらしに登場する一勢力「山犬」の誤訳である。私はひぐらしの翻訳グループ(頓挫した)に関わっていたが、、そこではある人に間違いを指摘されるまでずっと"Yamaku"と訳していたのだった。このグループへの言及として、学校名にこの名前を使った。
・仙台城
どういうわけか、山久高校の場所を決めるに当たり、仙台を選ぶことにした。大都市では難しいだろうが、中規模な都市の付近でないと必要な医療施設が得られないという判断だった。
その決定のあと、私は初めての日本旅行のうち、最初の2日間を仙台探索に費やした。ゲーム中の街中の背景の多くはその際に得た素材がもとになった。(このために行ったとは、私の友人たちはまったく知らなかった)
学校の場所は仙台城跡に定めた。城跡のある坂を登るバスを捕まえ、そこから仙台市へと歩いて戻った。(長い距離だ)その旅行から帰ると、私は学校の環境について詳細な設定を書いた。写真に合わせるためにいくつか変更を加えたのを除けば、その時の設定がほぼ残っている。2015年にはSurikoが自ら仙台を訪れ、ゲーム中のシーンと全く同じ場所で「リリーになりきっている」自分の写真を撮っている。
・やけどと火傷病棟
私の父は人生の長い間病院に勤めていて、うち20年は救急病棟だった。目にした中で一番ひどかったものは何か、と父に聞いたことがある。そのとき父は、友人とキャンプに出かけていた人がいて、友人の寝たばこがナイロン製の寝袋に火がうつり皮膚に溶け込んでしまった、という話をしてくれた。その人は命は助かったそうだけど、父から聞いたその怪我の詳細は華子ルートの初期稿で使われた。(しかし最終稿には全く残らなかったと思う)
私自身も、父の病院のがん病棟で働いたことがある。これは火傷病棟の隣にあったので、久夫が入院中の経験を語る部分で当時の模様の一部を使っている。
・セックス
華子との最初のセックスシーンは、今ではほとんど破棄されたが、私自身の初体験に基づいている。相手は年上の、もっと経験のある同僚だったが、大半の初めて君にとっては「良すぎる」内容になってしまったので……
・バッドエンド
いい話と悪い話ということで、KSを書いている最中に私は「岩魚子」からのシグナルを完全に読み違えてしまった。馬鹿なこと(本当に下手を打った)をしてしまい、本物の岩魚子に手ひどく振られる羽目になった。これがあのバッドエンドに対する主な動機付けになった。(もちろん状況は違うわけだけど、それはまた別の機会に明らかにすることもあるだろう。酒飲んでIRCで一人で……)
まあ、そういうわけ!
参考になったら幸いです。